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               築地市場や魚と流通に関する話題

前回から続く

中国の鰻蒲焼事情(2)
平成13.年07月19日

福建省南平市のアンギラ種養殖事情

南平市郊外の養殖池。
アンギラは昼寝をする!。⇒
写真ではわかりずらいが、アンギラ種は水中のロープや
カゴなどに体を乗せて昼寝する習性がある。

内陸部で盛んなアンギラ(ヨーロッパ種)の養殖
 鰻の養殖では、日本国内や台湾、そして中国でも前回レポートした沿海部などでは日本と同じ”アンギラ・ジャポニカ種”を養殖している。これに対し、中国の内陸部ではヨーロッパ種の鰻”アンギラ・アンギラ種”(中国語では「欧鰻」)の養殖が主流となっている。
 アンギラ種は「ヨーロッパ鰻」などとも呼ばれ、フランス、イギリス、などで獲れる大西洋系の鰻。(鰻の種類としては他にアメリカ鰻「アンギラ・ロストラータ」があるが、この種は気性が荒く「共食い」するため養殖には向かない。シラス鰻の売買には「危ない人達」が関わるケースもあるが、シラス鰻の相場が高騰した時などにはこのアメリカ種のシラスを、養殖業者がだまされて買ってしまい大損する事もある。)
 アンギラ種の稚魚、シラス鰻はフランスのビスケー湾で獲れるものがほぼ100%となっていて、その漁期と輸出は現地政府によって厳しく管理されている。

豊富な水量を必要とするアンギラの養殖
 アンギラ種はジャポニカ種に比べ、清流を好み、その養殖には豊富な水量が必要となる。
ジャポニカ種の場合、比較的濁った水の中の方が養殖に適しているそうで、これがジャポニカ種の”泥臭さ”の一因とも考えられる。
これに対し、清流を好むアンギラ種の場合は、養殖池の水全体が1日で入れ替わる程度の水量が必要になり、これが水量の豊富な中国内陸部でアンギラ種の養殖が盛んな理由となっている。
南平市へは福州市から鉄道で3時間程内陸へ入る。
写真上は南平市を流れる大河。これをはるかに遡れば、焼き物で有名な景徳鎮や南京に至る。ここ南平市の更に奥地にも養殖池は点在する。

付近の山岳地帯には水量の豊富な渓谷もあり、観光地としても有名。


●アンギラとジャポニカ
アンギラ種は目玉が大きく瞳が小さい。
(ジャポニカ種は目玉自体が小さい。)
A:アンギラは幅広く短い形。頭が大きく、裂くと幅広になる。
J:ジャポニカは細長く、頭の切り口の幅も狭い。

相場安に苦しむ中国の養殖業者
 現地の養殖業者は近年の日本向けの鰻蒲焼相場の暴落で、非常に厳しい経営を余儀なくされている。
 養殖業者は鰻の稚魚である「シラス」を買い、餌を与えて育て、加工業者あるいは仲介するブローカーへ売り渡すわけだが、一昨年頃の日本国内での鰻相場の暴落で、加工業者への売り渡し価格も大幅に下がり、中には「夜逃げ」する業者も出るほど厳しい状況となっている。
 養殖業者は鰻の稚魚「シラス」を買いつけるわけだが、このシラスは供給元が限られるため、高い時には1kgあたり数十万円と信じられない程高値になる事もあるリスキーな商品となっている。(アンギラ種の場合は比較的安価。どちらも非常に高価で取引きされ、その流通は不透明、「その筋の人達」の資金源となる事もある。)
更に、(※@)も業者から買い付けなければならず、やはりかなりのコストとなってしまう。
 養殖鰻の供給については、この”シラス”と”餌”の量の制約があり、いかに広大でコストの安い中国といえども無制限に量産できるわけではないという事。
 我々が訪問した養殖池(上の写真)も、元々は独立した養殖業者が経営していたが、破産してしまったため、たまたま餌を供給していて債権のあった加工業者が養殖池の中の鰻ごと買い取り、引き継いでいるそうで、人件費などコストの安い中国とは言え、厳しい現実があるようだ。

      (※@)鰻の餌

鰻の餌には
ホワイトミール:スケトウの身を原料に使ったもの
ブラウンミール:イワシの身を原料に使ったもの
 の2種があり、これに抗菌剤などが添加されている。
 いずれもかなりの脂肪分があり、我々の訪問した加工業者は、これを自社製造していた。

養殖池の鰻が大挙してこの餌のかたまりに喰らいつく様は、非常に貪欲で気味が悪いほど。
南平の蒲焼加工業者の工場
工場の設備、加工工程などは福州市のジャポニカ種
の場合とほとんど同じ。

セーフガード問題
 最近、日本政府は中国からの輸入急増に対して、椎茸、ネギなどにセーフガード(緊急輸入制限)を発動し、これが両国の貿易摩擦を引き起こしている。
 鰻についても、輸入蒲焼の急増による相場安に苦しむ国内養殖業者の声に押され、セーフガードを発動してもらおうという動きがあったが結局今に至るまで発動される事なく推移している。
 そもそも現在の鰻相場の急落は、中国側が故意にダンピング攻勢をかけた結果などではなく、何らかの形で安値相場に歯止めがかかるのは中国側としても大歓迎なわけで、結局のところ中国側が自主規制をする形で落ち着く事になった。
 またその内容も、「総枠を55,000トンとして、そのうち45,000トンを早いもの勝ちの自由な枠とし、残りの10,000トンを実需に基ずく割り当て」、という形にしたため、”駆け込み需要”が発生し業界は一時的に混乱することになった。

 この問題は日本と中国の貿易摩擦の問題というより、中国の鰻ビジネスの実態からすれば、「中国へ進出している大手商社や食品、水産会社などの日本企業と、旧来の国内の養殖業者との国内対立の延長」という構図で理解する方がより実態に近いと言うことができる。
 いずれにせよ安易にセーフガードの発動などに走れば、より大きな貿易摩擦問題と、日本企業とともにビジネスを興してきた中国企業の反発を引き起こす事になりそう。

原産地表示
 日本人は特に食品に関して「国産」にこだわる傾向が強いが、昨年来、改正JAS法により”国産うなぎ”が爆発的に売れ、ひっぱりだことなっている。
 今年はこの傾向が更に顕著で、国内の養殖蒲焼業者はシーズンに向けテンテコマイとなり、出荷を「割り当て」で調整している業者も多い程となっている。
 輸入物=粗悪品、安物、まずいモノというイメージが根底にあるからなのか、当社の店頭などでも輸入品の表示をすると売りにくくなるという傾向は非常に強いものがある。
 しかし実際には、輸入物と国産どちらが良いかと言えば、鰻の場合は非常に微妙であり、実は台湾産や中国産の方が国産よりかえって「皮が柔らかい」、「味にクセがない」などの点で評判が良いというケースが非常に多い。

 日本では今年から、改正JAS法により加工品についても原産地表示が義務化された。
昨年秋に台湾と中国で、日本、中国、台湾の鰻に関わる企業が一同に集まる会議が開かれたが、ここではこの日本の「原産地表示」が話題になった。
 この改正JAS法では、たとえ中国産の鰻を使っても、蒲焼加工を国内で行なえば「国産」の表示が可能であり、白焼きまでを中国で行なっても最後に蒲焼に”加熱”すれば国産表示で良いという事になり、非常に不自然な法律となっている。また小売業者の中には、あきらかに輸入物の蒲焼を「国産」として堂々と販売している業者まであり、このようなインチキな実態は中国側も十分承知しており、日本企業の出席者達は非常に恥ずかしい思いをしたという話だった。
 このような事があったからか、日本側も業界内で、今後は鰻の原料段階での産地表示をしようという話が進んでいるそうである。
 また農水省も今月、改正JAS法に基ずく原産地表示を2002年2月より「鰻蒲焼」「塩さばなどの塩蔵・塩干の魚及び塩蔵・塩干のワカメ」などへも拡大する決定をしたとの事で、制度面でも整備が進みそう。
 今後は日本の消費者も、今までより正確な表示により、単に「国産」の表示に惑わされる事なく、輸入鰻を正当に評価できるよう少しずつでも学習して行く事を期待したいものだ。

”四万十川”と”炭火焼”
 ”表示”の問題に絡んでもうひとつ。最近、市場で「四万十川産」などという表示の鰻が売られているが、これは99%ニセモノ。これを大々的に販売していた業者もあったが、この会社は最近倒産した。
 四万十川の天然鰻が蒲焼の状態で出回るなどという事はあり得ないし、四万十川にはシラスから養殖している業者は1社しか存在しない。現在の法律では、元は中国産鰻でも、何日か池入れしておけば「静岡産」や「愛知産」の表示をしてもOKなわけで、要するにインチキ。

 また昨年からの傾向として”炭火焼”の表示で差別化している蒲焼製品が増え、結構売れている。
 しかし、現在の蒲焼の製造はここでご紹介した通り、高度に自動化、機械化していて、”炭火焼”の言葉から受ける印象「職人による手焼き」などが入り込む余地はほとんどないのが実態。
 実際はラインのごく一部に炭火の工程を組み込んだだけのものや、更に「タレ」に「炭焼フレーバー」を混ぜて、それらしい風味に仕上げているものも多い。

 当社のメインの鮭鱒を含め、水産物の世界にはインチキは多いが、ことウナギに関しては「知れば知るほどインチキが多い。」、別の言い方をすれば「一般消費者のイメージと実態がこれほど違う業界はない。」というのが正直な感想。


南平市内のレストラン
 海老など他の淡水魚は豊富だが、ウナギは高級魚でこのような大衆的な店のメニューには少ない。
 中国人が日本人と同じくらいウナギを食べるようになったとしたら、かなりコワイことになりそう。

ところで本当においしいウナギとは?。
 今までヤレ国産だ輸入だ天然だのという話をしてきたが、結局おいしいウナギが食べられれば良いわけで(それが安ければなお良い)、「本当はどのウナギがおいしくて良いウナギなの?。」という話になる。ところが、これが非常に難しく微妙な話になってしまう。

 昨年来、ウナギを本腰を入れて販売するために、ウナギの味を研究してきたつもり。しかし、かく言う私も自分の味覚に特別自信があるわけでもなく、正確な評価をするため、さまざまな種類のウナギ製品を集め、当社の事務員や営業などに食べてもらう「食味テスト」をしたことがある。
 
 食味テストの為に集めたウナギは次のとおり。

国内養殖、国内加工の蒲焼製品
台湾養殖、台湾加工の蒲焼(ジャポニカ種)
中国養殖、中国加工の蒲焼(ジャポニカ種)
中国養殖、中国加工の蒲焼(アンギラ種)
中国養殖、国内加工の蒲焼(ジャポニカ種)
築地の老舗有名鰻専門店の蒲焼(当然ジャポニカ種、職人の焼きたて)

これを素性を隠して皆に食べ比べててもらい、(他人と相談させず、自分が)おいしいと思った順に点数をつけてもらった。

結果
1位 F:築地の有名鰻専門店の焼きたて。(当然?)
2位 B:台湾産蒲焼。皮が柔らかく、身もふっくら。味も適度に「ウナギの味」がすると好評。
3位 D:中国アンギラ
   E:中国産、国内加工
     ※アンギラはウナギの泥臭さが全く感じられないと評判。
5位 C:中国ジャポニカ やや臭みがある。皮が他に比べ硬い。など。
 
 そして最も評価の低かったのは。なんと!
最下位 A:国内養殖、国内加工の蒲焼(名誉のため産地、ブランドは非公開)。「皮が硬い」「ドロ臭い」など評価は散々だった。

 このテストの結果でもわかるが、ヨーロッパ種のウナギは、「泥臭さが全くと言って良いほどない」という点で、特に若い女性などに非常に受けが良かった。またジャポニカに比べ脂が多いという点も、「より脂を落とす焼き方」が研究されたせいでかなり改善されている。
 また一面では、消費者が脂分に慣れてしまって味覚が変化している面もあるのかもしれない。
 台湾のウナギは、皮の柔らかさで比較的良く分かる。昔から「台湾のウナギは、気温が暖かく早く育つ為国産より皮が柔らかい」という話を聞いていたが、その理由が本当かどうかはともかく、はっきり区別できた。その他は微妙な違いだった。

 ちなみにこのテストに参加した10名の中で、全ての産地と加工地を当てられた人は皆無だった。最も成績の良かったのは私(北田)で1門不正解だった。

もう鰻のブランドには誤魔化されないゾ!。

とは言え、老舗の鰻屋で、注文してから小一時間待たされたあげく、痺れを切らした頃やっと出てくる”うな重”。職人の焼き上げたホカホカのふっくらした蒲焼に箸を入れる感触。そして最初の一口を口に入れた至福の瞬間、「日本人で良かった!」と思いませんか?。

(北田喜之助)

北田本店のオススメ 平成13年7月6日号 鰻特集へ

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LINK 独立行政法人農林水産消費技術センター うなぎ蒲焼の表示基準に関して、詳しい解説がある。
また表示や品質に関する消費者相談窓口もある。



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