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               築地市場や魚と流通に関する話題

塩鮭と生サケ
平成13年4月7日

減り続ける”塩鮭”の消費
 「魚ばなれ」と言われますが、当社の主力商材の「塩鮭」ではいまだにこの傾向が続いています。
 下のグラフは、一世帯あたりの鮭に対する消費金額の推移をグラフにしたものですが、一見して消費が大きく落ち込んでいる様子です。
 特に「塩鮭(全国)」などは、平成4年から平成11年までのわずか7年ほどの間に消費金額が半分以下まで落ち込むという厳しさになっているのがわかります。
 当社「魚河岸北田」にとっては主力商品の塩鮭ですが、このような厳しいデータを目の当たりにすると感慨深いものがあります。マアこれだけ消費が落ち込んでいるのだから商売が厳しいのはあたりまえ、むしろこの環境の中で当社「魚河岸北田」は健闘している方と言えなくもありません。
 しかし、そうとばかりも言っていられない、こんな中でも消費者のニーズをつかみ、伸びている商材や”食べ方”に対応して行かなければならないわけです。

堅調な”生サケ”の消費
 一方、「生サケ」の消費については、塩鮭とは逆に若干ではあるが消費が伸びている様子がわかります。塩鮭と生鮭の一世帯当たりの消費は、平成7年に逆転し、この傾向は現在も続いています。
 塩鮭だと「焼く」ことしかできない反面、生鮭の場合はフライ、ステーキ、マリネなど調理方がはるかに多いという事からか、消費者の嗜好の変化が見て取れます。
 もっともこの統計では、生鮭に分類される金額の中に塩鮭として食べられるものが含まれているので、その分多少割り引いて考える必要があります。
 例えば、スーパーや鮮魚専門店などでは、冷凍の生鮭を売り場で切り身にしその時に粗塩をサッと振り「甘塩鮭」として売る、いわゆる”ひと塩”の売り方があります。売り場では生サケを買い求めた消費者が、家庭で塩鮭として食べるケースも多いようです。
 最近の料理番組などを見ても、材料として塩鮭を使う料理の場合、料理の先生が生の鮭を用意してそれに好みの塩加減に塩を振るといった料理法を教えている例が結構多いようです。
 いずれにせよ消費者のニーズが塩鮭から生サケに移っているのは間違いない事実と言えます。
 
 またこの統計とは別に、もう一つ先行きを示すデータがあります。それは30歳以下の若い世代ほど塩鮭より生鮭を好む傾向があるという事が他の統計でわかっている事です。
 これは多分、回転すしや居酒屋などで脂の乗ったサーモンを食べる機会が多く、食べなれているという事でしょうが、30歳以下の若年層の消費傾向は10年後、20年後の全世代的な消費傾向を先取りして現れる傾向があると言いますから、その意味でも「塩鮭の減少、生鮭の増加」の傾向はまだまだ続きそうです。

現在の一般的な売り場の例

 手前は当社「魚河岸北田」の売り場。(塩干)
 左手から向かい奥は鮮魚系量販店N社の売り場(鮮魚)


塩鮭、いくら、たらこ、干物などの商品はどちらの売り場でも売っているのが現実。

崩壊した”鮮魚”と”塩干”の壁
 スーパー、百貨店など小売りの世界では、水産物の販売は、”鮮魚””塩干、加工”とに大きく分かれるのが普通です。
 ”鮮魚”とは読んで字の如く、マグロ、サンマ、イカ、あじ、或いは”さしみ”や”持ち帰り寿司”など、生の魚を販売する部門。一方”塩干、加工”とは、塩鮭、干物、たらこ明太子などといった加工品を扱う部門で、昔はこの二つのカテゴリーははっきり区別され、デパートなどの売り場では、扱う商品により販売する業者もはっきり分かれているのが普通でした。
 またスーパーなどでも、同じ魚の担当でも「塩干・加工」と「鮮魚」は部門とバイヤーが分かれるなど、はっきり色分けされているのが普通です。(近年はこれに”惣菜”という部門が加わるケースも多くなった。)
 当社「魚河岸北田」は鮭や魚卵、干物などを主力商材としていますので、当然「塩干、加工」というカテゴリーとなり、魚屋とは言ってもマグロや鮮魚、刺身、寿司などは一切販売していませんでした。(現在でも)
 反対に、売り場で隣接する”鮮魚”の業者では、たらこや明太子、イクラなど加工品は売らず、鮭でも生の鮭は置いていても「塩鮭」は遠慮して売らないというのが普通でした。そしてデパートもこの区別をはっきり認識して、販売する商品がダブらないよう業者にきっちり守らせていたのが従来の慣行でした。
 しかし20年ほど前から様相は一変します。
 この頃から、鮮魚をセルフ方式で大量販売する専門店、いわゆる鮮魚系のカテゴリーキラーが登場し、圧倒的な集客力に惹かれた百貨店が競ってテナントとして導入しはじめ、この「鮮魚と塩干の区別」は徐々に崩壊してゆくようになります。
 この”鮮魚系量販店”は、その圧倒的な販売力にものを言わせて扱い商品をどんどん拡大し、現在はどこの売り場でも塩鮭、たらこ、いくら、干物などの塩干加工品を当たり前のように販売するのが普通になってしまいました。

 今では一般の消費者にとって、魚の類の食材は何であれ魚屋で売っているのが当たり前で、魚屋に”鮮魚”と”塩干”の区別があるなどという事は、殆ど意識されていないようです。またこの傾向は若い世代ほど強いようで、私も、友人から、「旨いマグロを食わせてくれよ」などと言われる事も多く、その都度、そもそも当社が水産物といっても塩干専門などだという事を説明しなければならない訳ですが、そもそも塩干と鮮魚などという観念そのものが現在では存在していないのが実態のようです。

本当の「塩鮭」は「塩味のついたサケ」ではない
 「塩鮭はどこの魚屋でも買えるし、もし塩鮭が無ければ生サケに塩味を付ければいいじゃない?。塩干の専門店なんて必要ない。」という事になります。
 確かにそれで不便はないかもしれません。しかし我々のように”塩干”にこだわって営業してきた者にとってはそれだけでは何か足りないという感覚が残るのです。
 そもそも塩鮭とは、単に鮭に塩味が付いただけのものではありません。
 昔の塩辛い鮭の味を覚えている方にはおわかりいただけると思いますが、昔の塩鮭は塩辛かった反面、今の鮭にはない鮭本来の”旨み”があった筈です。
 昔の塩鮭の製法は、現在のように冷蔵設備が整っていなかったせいもあり、鮭を塩にまぶしてしばらく寝かせておくというものでした。鮭はこの間に熟成し鮭本来の味が引き出されるというわけです。(この意味では本来の塩鮭は、「鮭の漬物」と言えるかもしれません。)
 これが次第に「減塩志向」「甘塩志向」となり、例えば秋鮭でも昔は辛口の「山漬」が普通だったものが、甘口の箱切りとなって行きました。この箱切りは、工場で内臓とエラを取り除いた後、塩を簡単にまぶしてそのまますぐに凍結するという製法で、甘口にはなりますが熟成はまったくかかっておらず、昔の新巻き鮭の味を好きな人には「何か物足りない」と感じさせる味になってしまいます。
 更に現在では、特に養殖鮭などは「定塩」という製法で作られています。「定塩」は半身におろした鮭を塩水の中に漬け込むという製法で、この製法は鮭の部位(背やハラ)で塩分のばらつきが少なく、塩分の強弱もきっちり管理できるので、現在では塩鮭の製法の主流になっています。しかしこの製法でも熟成は全くかかっていない事に変わりありません。
 マア現在では、このような微妙な味の違いはほとんど問題とされないのが実態。消費者はより脂の乗った鮭を旨いと感じて買い求める傾向が益々強くなっているようです。 

それでも減ってはいない”鮭”の消費
 「魚ばなれ」と言いますが、意外な事に、鮭に関しては消費はほとんど減っていないのが現実です。近年では鮭鱒の年間総供給量は50万トン前後の状況で安定しています。
 「塩鮭の消費がこんなに減っているのに何故?」という疑問になりますが、それは「鮭を別の形で食べているから」という事になります。
 例えば、コンビニで売っている「鮭のおにぎり」を考えてみてください。一つ一つのおにぎりに入っている鮭の量は微々たるものですが、これがコンビニのおにぎりの定番として何個づつか売れるとすると、全国に何千件もあるコンビニで売れる数は実に膨大なものになります。
 実際、このコンビニのおにぎり向けに加工、消費される鮭の数量は膨大なもので、現在では海外産地、商社、海外工場を巻き込んで、国際的なビッグビジネスとなっています。(これについては機会があればご紹介します。)
結局、日本人が鮭そのものを食べなくなったのではなく、消費の形態が変化したという事のようです。

ChartObject 塩鮭と生サケの一世帯当たり消費金額(円)


(北田喜之助)


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