目次へ
               築地市場や水産物流通に関する話題、魚や旨い物に関する話題など

独禁法違反事件結審-冷蔵倉庫業界

平成12年4月21日

今回は、北田水産グループの竃k冷から、冷蔵倉庫業会(水産物や農畜産物を冷蔵保管する倉庫業者の団体)の話題です。

日本冷蔵倉庫協会の総会。

平成12年4月20日
於:虎ノ門パストラル

 
昨日開催された総会で、独禁法違反事件の結審
について説明する日本冷蔵倉庫協会の金田会長。

冷蔵倉庫業界にとって最大の問題となっていた独占禁止法違反事件の審判の審決が4月19日に決定し被審人(被告に相当)である(社)日本冷蔵倉庫協会(会長:金田幸三氏)に対し公正取引委員会より送達されました。
 この審判では、平成4年に行なわれた保管料の値上げが業界ぐるみのカルテルではないかと言う事で争われていたものですが、心配されていた課徴金(罰金のようなもの。もし課されれば業界全体で2000億円以上になり、独禁法史上空前の金額となる。)のある独占禁止法第八条第一項第一号ではなく、同法第八条第一項第四号違反という結果となり灰色決着というところです。
 この審決では最も心配された課徴金の支払いは避けられたものの、有罪である事は変わりなく、これからの業界運営のあり方にさまざまに影響する事になるものと思われます。

事件の発端
 事の発端は今から6年前の平成6年3月15日にさかのぼります。この日全国の冷蔵倉庫会社の主に大手各社に対し、全く突然、公正取引委員会から一斉に立ち入り調査が入りました。
 余りに突然の立ち入り調査であり、会社の記録や書類の類は押収されるし、個人のメモや手帳の類まで疑わしいものはすっかり持っていかれる事態となり、各社は右往左往する事になってしまいました。
 経営者の中には、カバンの中の個人の手帳類まで押収されて「自分の予定がさっぱりわからなくなって困った。!」という人まで現れるような、笑えぬ事態となり、冷蔵倉庫業界は大混乱となってしまいました。
 
東京の場合、ちょうどその日は業界の経営者の親睦ゴルフコンペの開催日で、社長たちが会場の茨城GCでプレーをしている最中でしたが、社用車の運転手達がラジオ放送でこのニュースを知り、

 「社長〜!!。た、た、た、大変でぇ〜す!!。」と大慌てでコースにいた社長たちに急を知らせたという事でした。そして、急遽グリーン上での緊急会議となり、情報分析と取り敢えずの対策を話しあったということです。
 実はこのゴルフコンペには私も参加する筈だったのが都合で参加できず、このニュースはNHKのテレビで知る事になりました。そして慌てて本社へ出向いたのですが、ちょうどその日(小規模の会社は翌日16日水曜だった)は臨時休市日で事務所は休みで事なきを得ました。
 事務所の留守番に「誰か来なかったか?。」と聞くと、「背広を着た方が3人でお見えになって、今日は休みで誰もいない旨話すと、名前も名乗らずお帰りになりました。」という事で多分それが公取の調査官だったのだろうと想像されます。
 ちなみに、この日のゴルフコンペは、これだけの大事件が起きたにも拘わらず全18ホールをしっかりプレーしたとの事で、その落ち着きぶりとゴルフに対する姿勢には感心させられます。
審判の経緯
 捜査の対象となったのは、平成4年6月に冷蔵倉庫各社が運輸省に届け出た保管料の値上げに関して、業界ぐるみのカルテルがあったのではないかという疑いからでした。
 そもそも冷蔵倉庫の料金は、保管料、荷役料共に、監督官庁である運輸省への「届け出制」で運用されてきたものでした。そしてこの「届け出制」は電車やタクシーの料金のような「許可制」とは違うものの、運輸省の行政指導の範疇である事には変わりなく、実質的には監督官庁との話し合いで決められてきたものでした。
 このような制度のもとでは、個別の事業会社がタテマエどおり個別に役所と話し合う事など現実的ではなく、業界として監督官庁との折衝を行い、この結果を会員各社に知らせるという事はあったのですが、この事をもってカルテルであるとか違法であるとかの認識は誰にも全くなかったと言って間違いない事だったのです。
 これに対し公取の言い分は、平成4年に業界各社が一斉に値上げを届け出たのは、平成4年4月23日熱海の「大野屋」で行なわれた日冷倉協の常務会での談合の結果だという疑いでした。(熱海大野屋での談合などというと、何か時代劇に出てくる悪徳商人みたいでいかにも悪そうに思えませんか?。)
 この日は日冷倉協の通常総会の日で、毎年全国から200人以上の人が集まる事から、大野屋のような大きな会場で開催する事になっていたのであり、これは例年地域ブロックを変えて全国のどこかで開催されていたものでした。たまたまその時は熱海「大野屋」だったのです。

 

 さて、立ち入り調査の後は押収した資料にもとずいて、業界のメンバーに対する厳しい取り調べが始まりました。
 幸い私のような業界の末席の者には及びませんでしたが、業界の主要なポストの人達は軒並み公取に呼び出されて取り調べが行なわれ、その取り調べは聞くところによると、まるで警察が犯人を取り調べているような実に厳しいものだったそうです。当時、取り調べを受けた業界幹部の人たちは、さぞかし大変だったろうと思います。

 そしてこの調査と取り調べた事実にもとずいて、公取は平成7年11月「排除勧告」を行ないました。
 その後、平成8年2月より審判(普通の裁判に相当するもの。これが不成立だと普通の裁判となる)が行なわれ、平成12年4月19日に結審するまで、実に29回にわたる審判が行なわれる事になりました。
 審判では、被審人(被告に相当)である日本冷蔵倉庫協会の代理人(弁護士)が、問題とされているのは「届け出料金」なのか「実勢料金」なのかなどの解釈をめぐって争い、公取側の矛盾を突くという形での論争となりました。
 そもそも冷蔵倉庫業界での現実は「届け出料金」がどうあれ、実際の「実勢料金」はダンピングが横行し、届け出料金値上げのメリットは殆どなかったのが現実だったのです。

 何はともあれ、当初10年以上かかるのではないかと心配された今回の問題が、課徴金のない形で一応の決着を見たのは業界にとってマズマズ良かったと思います。


事件の影響
とは言え、審決では違反があったという認定であり、有罪という事実に変わりありません。
 この事で、例えば業界内で料金の話ができなくなるのはもちろんの事、業界の運営に関してますます難しくなると予想されます。
 この事件の後、現在では料金の決定に際しては「幅料金」制を採用し、一定の料金の幅の間であれば業者が個別に運輸省に届け出を行ない、それを超える(あるいは満たない)料率を届ける場合は、詳細な原価計算書を添付して届出を行なうという方式に変更されていますので、取り敢えず問題はないかと思われます。
 

 但し、現在の規制緩和の潮流の中で「届け出制」そのものを廃止して原則自由にしてしまおうという動きもあり、業界としては運輸行政全般の中で他の例えば港湾料金などは規制が厳然としてある訳で、ひとり冷蔵倉庫業会だけが完全自由では、物流行政の整合性を欠くとして一定の規制の存続を望む立場をとっています。
 業界にとって今問題なのは料金の値上げなどではなく、原価を大きく割り込むダンピング料金が横行している事であり、本来であれば公取はこのようなダンピング行為こそ取り締まってもらいたいという意見もあります。
 いずれにせよ、これから業界内では存続をかけて、料金に関して話せる事、話してはいけない事が徐々にはっきりしていく事だろうと思います。幸い荷物の量は最近急増しており、利用率も急上昇している事でもあり、この際一刻も早く料金の無秩序状態を脱却できるように願いたいものです。
公取と行政と規制緩和
前述のとおり、業界としては行政指導に従ってやってきたつもりの事が、ある日突然「犯罪行為」となってしまったとも受け取れる事だったのですが、審判の間もこの点に関して運輸省は「知らず存ぜぬ」というタテマエを通し続けたということです。
 何事につけ業界単位で、料金も含め、許可制、届け出制などはっきりしている、いないは別にして、何事も監督官庁との話し合いや行政指導に従って運営されて行くという事は、日本の社会では従来あたりまえの感覚ではなかったでしょうか。そこへ突然、アメリカ型の独禁法の解釈を持ち込まれ、混乱したのが今回の事件であるという印象はぬぐえません。
 規制緩和と言えば、運輸省もあらゆる分野の規制を緩和撤廃するとは言っていますが、例えばタクシー行政の例などを見ても、タテマエとは逆にとても本気で規制緩和を考えているようには思えません。(タクシー業界は台数規制の撤廃など規制緩和が進んでいるようにも見えますが、良く考えて見ると利用者にとっては肝心の料金に関しては殆んど変化がなく、MKなど低料金のタクシー会社はさまざまな面で不利益を受けているのが実態のようです。従来の料金のままで長い客待ちをするタクシーの行列を見ていると、私にはいつの日か「規制緩和反対」の声が市中から沸き起こるのを待ち望んでいる運輸官僚の姿が見えるような気がして仕方ありません。)
 
運輸省管轄の業界団体は当業界以外にもいろいろありますが、同じように「認可料金」「届け出料金」などで運営している業界も多くあります。本来であれば、業界と監督官庁である運輸省が良く連絡を取り合い、更に運輸省と公正取引委員会との間の根回しをもっと密にしておけばこのような事態にはならなかったのではないかという見方もあります。実際、他の業界ではそのように運営しているようです。
 これに対して冷蔵倉庫協会では、伝統的に純粋な民間主導で運営していて、例えば運輸省からの天下りの職員などは一人も受け入れない程潔癖な運営を行なっていましたが、この事が今回の事態を招いた伏線だとすれば何か割り切れない思いが残ります。
 ちなみに、この事件の影響かどうかは別にして、冷蔵倉庫業界にもいよいよ運輸省OBの役員が誕生するという話もあります。

 現在多少改善の兆しがあるとは言え、ダンピング料金のまかり通る現在の状況が続けば、冷蔵倉庫は再生産も経営も成り立ちません。食品流通というトータルな構造の中で、消費者にとって、どの分野の構造改善、規制緩和が真にメリットになるのか、より広い視野に立った展望が求められるのではないでしょうか。
 何はともあれ、この事件の決着を機として、業界環境が少しでも改善する事を望みたいものです。

(北田喜之助)


魚がし北田のホームへもどる

この記事の感想をメール

北田水産株式会社
All rights are reserved.
〒104 東京都中央区勝どき5−11−11
Tel: 03-3531-5811(代表)

Fax:03-3531-7272