築地市場や水産物流通に関する話題、さかなを中心に「おいしいもの」に関する話題など。気の向くままに集めてみます。


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信用されない日本の水産物市場
平成11年7月13日

 アラスカ州独禁法訴訟で日本側に無罪判決

 米国アラスカ州で、1995年以来続いていた鮭の買取り価格をめぐる訴訟について、新聞報道などによると日本企業の無罪判決で結審したとの事。
 そもそもこの問題は、アラスカの主にブリストル湾の猟師達が、彼らから魚を買い付けるパッカー(缶詰、冷凍加工業者)や日本のインポーター企業(アメリカから魚を買いつけて日本に輸入する大小の商社)が、買い付けの価格を談合し不当に値段を引き下げたとして告訴していたものだった。
 これに対し日本側は、価格の下落はマーケットの市況によるもので談合ではないとして争ってきたが、裁判の長期化に嫌気して途中で賠償金を支払い和解した企業もあった。
 この訴訟が起きてからアラスカの日本企業は、非常に神経質になりピリピリしていて、隣の会社の日本人の同業者に世間話の電話をしているだけでアメリカ人スタッフに疑われた、というような可哀想な話も多かったようだ。
 現地に進出している日本企業の経営者の話を聞では、アメリカで特に気を使う「悩みの種」が二つあり、ひとつはこの「独禁法」の問題であり、もうひとつの問題は現地の女性従業員に対する「セクハラ」のトラブルだそうである。
 どちらも問題が起きれば裁判社会のアメリカの事、時間と経費が莫大にかかる。
 余談になるがセクハラに関しては、現地の工場の従業員は大学生、高校生などの男女アルバイトが夏休みを利用して全米から集まっているケースが多く、彼女達と1日中一緒に働いていれば何も起きない方が不思議ということは、私も昔、一夏現地を手伝った経験があるので良く解かる。
 今回の訴訟は結果的には時間がかかったものの、日本側の無罪となったのだが、こういう問題が起きる背景にはアラスカ漁民の日本企業、日本の水産物マーケットの透明性、更には日本人そのものへの根強い不信感があるように思う。

 アラスカ州の水産業にとって日本は、いうまでもなく最大のマーケットであり日本人は最も大量に魚を買いつけてくれる「お客さん」である筈だ。この事は、ヘルシー志向でアメリカ人の魚の消費も増えたとはいえ、現在でも変わらない。
 にも拘わらず、アラスカ州民の日本企業や日本人に対する感覚はあまり好意的ではないように感じる。
 現地での商談の際などには、最近の米国内ドメスチックの消費が増えた事を殊更強調して価格交渉に使う事もあるらしい。(実際、カニなどではその傾向が強い)
 また、アラスカには石油産業という巨大産業があり、相対的に漁業やそのマーケットが軽く見られていると言う事もあるかもしれない。
 しかし根本的には日本および日本人に対する不信感を感じてしまう事があるのは何故だろう?。
 ひとつには、歴史的なものがある。現在のような200カイリ時代になる以前のアラスカ近海では、日本の遠洋漁業の船団が沿岸のアラスカ漁民のすぐ目と鼻の先まで押し寄せ漁をし、たびたびトラブルになっていた。
 200カイリ時代になって以降も、違反船の問題やアザラシの混穫など何かにつけて日本は悪役に回る印象が強かった。このようなことが現在まで感情的に尾を引いている部分もあるのだろう。
 また日本人全体に対するイメージが、何かにつけ「ずるい日本人」という先入観があり、それが災いしているのかもしれない。

 このような感情的な背景もある、しかしここで問題になったのは、「鮭の価格」という純粋に経済的な話の筈である。
 もし日本の鮭の市況、マーケットやそれに伴う現地での買いつけ価格に信用があれば「談合」などどという話にはならない筈であり、そのことがもしキチンと理解され信頼されていれば、このような問題はそもそも起きなかった筈だと思う。
 日本での鮭(サーモン)のマーケットは巨大であり、国産、輸入を含めて全世界の約100万トンの生産のうち40万トン以上を消費する世界最大の消費国となっている。鮭だけでこれだけの巨大なマーケットであるから、鮭の価格自体をどうにかしようなどという「談合」などは当然の話できる筈もない。
 鮭の流通にはいろいろ問題もあり、価格も乱高下する事もあるだろうが、これは飽くまでマーケットの力による事であり、どこかの誰かが恣意的に決めている事ではない。これは鮭の流通に携わる者の一人として自信を持って言えることだ。
 日本の築地には世界最大の魚市場があり、東京や大阪など全国の流通業者のネットワークの間で鮭の取り引きが行われており、これだけの巨大市場であるからこそ、そこで形成される価格はマーケットの価格と言える物になる。

 問題はこれが知られていない、信用されていないということだ。
 せっかく公正な取り引きが行われても、その情報が公開されず、また信用されないのでは意味が無い。どうも築地市場はじめ水産物流通の関係者はその辺のアピールが下手なのではないかと思えて仕方がない。
 たとえば穀物であればシカゴに世界をリードする商品市場がある、石油はどこそこというように、多くの商品に世界のセンターとなるオープンな市場があり、そこの価格情報が世界中に発信されて信用されているし、そこでの価格については談合などという事を疑われる事もない。
 鮭は水産物ではあるが、鮮魚と違いアラスカ物の場合大抵は冷凍での輸入となるから、一般の食品と同様の考え方もできなくはない筈である。

 今、築地ではご承知のように市場の再整備、移転の論議がされている。
 今は設備、ハードの面の話が中心になっているが、それ以上に重要なのはオープンな市場を作る事、市場の透明性を確保してその情報を(世界中に)発信するという「ソフト」の部分をもっと議論して、世界一の魚市場にふさわしい、世界中が水産物に関しては築地の相場を信頼するというような市場ができれば理想的と思うのだが、どうだろうか。

(北田喜之助)


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